田中学術奨励基金研究助成制度

日本不動産学会田中学術奨励基金研究助成制度

田中学術奨励基金研究助成 2020年度選考結果

<研究助成>
応募なし

<出版助成>
申請者板垣勝彦(横浜国立大学)
出版タイトル都市行政の変貌と法
助成金額50万円
助成理由本著作は、行政法研究者でもある申請者が、行政法理論を駆使しつつも、広範な都市をめぐる現実の諸問題、例えば、コンパクトシティの法的統制、歴史的街並みの保全と開発、外国人居住、公営住宅などの具体的問題を素材に、法制度や現行政策を所与の前提とする解釈論のみを提示するのではなく、政策的な方向性を検討し、立法論をも展開しようとする意欲的な試みである。 また本著作は、行政法学の伝統的な枠組みを、自覚的に広げることを意図して、法と経済学、ミクロ経済学、都市計画学、住居学等の先駆的な研究成果をも取り入れた学際的な研究を目指すものであり、この点においても、古典的な法解釈学の範型を乗り越えようとする付加価値が形成されるものと期待できる。
このような成果は、学際的で、実務的・政策的な学術研究の深化、発展を図る不動産学に対しても、大きい貢献を果たすこととなると見込まれる。日本不動産学会として、申請者には、本著作に限らず、法の精密な解釈を前提としつつも、法解釈のみによる現代的な諸課題の解決が困難である場合を不動産分野のみならず広く網羅しつつ、特にミクロ経済学、法と経済学等を応用した、反証可能性のあり得る科学的な評価に基づく政策対案を、大胆かつ精密な立法論として展開していってほしい。
申請者が、膠着した解釈論的な対応の限界を、学際的、実践的なアプローチで塗り替えていくことによって、行政法学、憲法学を含む法学の既成概念・理論をも変革し、条文の読み方のみに腐心するのではない新しい学術パラダイムの創出者、諸法令改革の先導者となっていくことをも期待する。 よって、田中学術奨励基金研究助成(出版助成)に相応しいと認められる。

<出版助成>
申請者小林正典(内閣府)
出版タイトルA Study on Transnational Private Regulations for Sustainable Urban Development
助成金額50万円
助成理由本著作は、これまでに高齢化や環境問題が深刻化する中で内外の不動産投資市場の分析において実績のある申請者が、2000 年代以降のグローバルな不動産投資・取引の拡大に伴い活発になった政府・国際機関、民間企業・NGO等による規制に焦点を当てて、国際不動産投資市場の規制・ルール作成における各種アクターの役割、行動メカニズムを分析し、さらに国際不動産投資市場の規制原理およびメカニズムとその実効性について国際比較分析を行い、経済、環境、社会領域における成果や政策的課題を明らかにした研究である。
 本出版は、下記の点で本学会にとっても画期的であり、有意義な事業となることを期待できる。 (1)これまでの不動産学研究の主流の一つは、投資目的であるか否かを問わず、内外の不動産市場の取引に焦点を当てた研究であったが、本研究は、経済、社会、環境の視点からみた政策的課題を背景に、不動産市場の規制メカニズムの在り方、課題、またそのルール形成において各種アクターが果たすべき役割、またその行動原理明らかにした点で意欲的、独創的な研究であり、不動産学における新しい分野の形成に資するものである。
(2)研究視点として、(i)経済領域: Global Real Estate Transparency Index(GRETI)/International Valuation Standard(IVS)、(ii)環境領域:Leadership in Energy and Environmental Design(LEED)/Global Real Estate Sustainability Benchmark(GRESB)、(iii)社会領域:Sustainable Remediation Forum(SURF)/Joint Commission International(JCI)認証という三つの視点を設定し、経済学、環境学、工学および法律学を融合する研究手法を明示して、本学会の理念である学際的な研究を行い、その観点からも大きな成果をあげている。
(3)本著作の研究課題は、国際不動産市場の動向や、国際的な連携について興味のある個人事業者、企業の実務担当者、さらに国際ルール形成の政策担当者も興味を持つべき重要な課題である。この点を踏まえて、研究視点ごとに非常に多くの国際事例を丹念に集めて関連概念を整理、分類し、分かりやすく作成した図表に基づいて国際不動産市場のこれまでの取引の動向、その拡大の背景・要因を定量的・客観的に説明することで、不動産学の専門家のみならず一般の読者も関心を高めるように工夫がなされている。
(4)本学会の課題の一つは、本学会の研究成果の国際情報発信である。本研究助成としては最初の試みとなるが、本著作の英文出版を助成することで、当該課題に即する学会事業の推進となるばかりでなく、本出版が契機となって本学会員のためのグローバルな研究の場が将来的に形成され、本学会員と諸外国の不動産学の研究者との研究交流が推進されることが大いに期待できる。
よって、田中学術奨励基金研究助成(出版助成)に相応しいと認められる。




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